はじめに:逃げ場のない「3人」という最小単位の美学
大学サークルでのリードギター時代、私の後ろには常にサイドギターやキーボードがいて、誰かが音の隙間を埋めてくれる安心感がありました。
しかし現在活動しているバンド“Entique”は3ピース編成。私が歌いながらギターを弾き、その後ろにはベースとドラムしかいません。
3ピースのギターボーカルを3年続けて分かったのは、この編成は「音が足りない」のではなく、「音の密度を自在に操れる最強の布陣」だということです。
自分が弾かなければ音が消える。でも、自分が鳴らせばバンドの全責任を背負える。この逃げ場のない緊張感の中で、どうすれば重厚で華やかなサウンドを作れるのか。3ピースのフロントマンとして私が辿り着いた5つの知恵を共有します。

コードではなく「ルートとニュアンス」で空間を埋める
3ピースにおいて、ギターがジャカジャカとコードを鳴らし続けるだけでは、すぐに耳が飽きてしまいます。逆に、音を抜いた時にベースとドラムの良さが際立つのも3ピースの醍醐味です。
⚡️ ポイント:ギターは「第3の打楽器」であり「第2のベース」
- 低音弦の鳴らし方が命: ギターの5、6弦をどう響かせるかが、バンドの「太さ」を決定します。
- パーカッシブなアプローチ: 音を出すことと同じくらい、ブラッシングやカッティングでの「キレ」が、リズムの壁を作ります。
- 全弦を鳴らさない勇気: あえて2、3本だけの弦で弾く「複音フレーズ」の方が、3ピースでは音がクリアに抜けてくることがあります。
🛠 解決策:3ピース専用のプレイスタイル
- パワコードと開放弦のハイブリッド: 低いルート音を鳴らしつつ、開放弦を混ぜて高域の倍音を稼ぐ。これで、一人で二役をこなすような広がりが出せます。
- サスティーン(残響)をコントロールする: 音が途切れる場所では、あえて弦を指で叩くようにしてノイズを混ぜるなど、「無音」を「音楽」に変える工夫をします。
- ダウンピッキングの徹底: Entiqueのリズムセクションと噛み合わせる際、あえて泥臭くダウンピッキングを多用することで、音圧に「重み」を持たせます。
🎤 実体験:Entiqueでの「気づき」
結成当初、私は「音が薄い」と言われるのが怖くて、ずっと全弦ストロークで弾いていました。でも、ある時思い切ってサビ前でギターを止め、ベースソロのようなラインを入れたんです。
すると、逆にサビでギターが入ってきた時の爆発力が何倍にもなりました。「ずっと鳴らさないこと」が、3ピース最大の武器だと気づいた瞬間でした。

ベースとの「周波数の対話」を設計する
3ピースにおいて、ギターとベースは「メロディ楽器」と「低音楽器」という枠を超えた、対等なパートナーです。
⚡️ ポイント:ベースがギターの役割を肩代わりする
- ベースが歌っている間にギターが支える: リードギター的な動きをベースに任せ、自分はリズムに徹する。この役割の逆転が、3ピースの表現を広げます。
- 音域の棲み分け: ギターがハイポジションにいる時はベースが低域を、ギターがローコードの時はベースが少し高めのフレーズを。この「X(エックス)の動き」が音の壁を作ります。
- ユニゾンの破壊力: ここぞという時にギターとベースが全く同じフレーズを弾く。その瞬間、バンドは一つの巨大な生き物になります。
🛠 解決策:二人の「音」を混ぜる技術
- ベースの歪み量を調整してもらう: 3ピースの場合、ベースが少し歪んでいるだけで、ギターがソロを弾いている時の「スカスカ感」が消えます。メンバーと相談して、理想の「混ざり具合」を探ります。
- ギターのトーンを「中低域」に寄せる: シャリシャリした高音ばかりだとベースと分離しすぎてしまいます。少し中域を膨らませることで、二人の音が一本の太い線になります。
- アイコンタクトでの「押し引き」: 「今は俺が前に出る」「次は君だ」という合図を、リハーサルから徹底的に合わせます。
🎤 実体験:サークル時代の「孤立」からの脱却
サークルでのリードギター時代、私はベースの音なんてほとんど聴いていませんでした。
でもEntiqueを始めて、自分の音が消える恐怖を知ってから、隣にいるベーシストがどれほど自分を支えてくれているかを知りました。二人の音が一つになったとき、3ピースは4人編成以上のパワーを発揮できる。それを実感できたのは、この3年間で一番の収穫です。

ギターソロ中も「リズム」を止めない技術
3ピースのギターボーカルにとって、最大の難関は「ギターソロ」です。ソロに入った途端、バンドのリズムが弱くなってしまう……この悩みをどう解決するか。
⚡️ ポイント:ソロ中も「コード感」を失わない
- 複音ソロのススメ: 単音だけで弾くのではなく、コードの一部や開放弦を混ぜながら弾くことで、厚みをキープします。
- ペダルポイントの活用: 特定の音(ルート音など)を鳴らし続けながらメロディを動かす。一人でバッキングとリードを兼ねるテクニックです。
- 「歌の延長」としてのソロ: 難しい速弾きよりも、観客が口ずさめるようなメロディアスなソロの方が、3ピースでは説得力が増します。
🛠 解決策:ソロで「化ける」ための工夫
- ブースターと空間系の使い分け: ソロに入った瞬間、音量を上げるだけでなく、ショートディレイなどを薄くかけて「音の広がり」を足し、空間を埋めます。
- 「休符」を恐れない: ドラムとベースを信じて、あえて短いフレーズを叩きつけるように弾く。その「余白」が、聴き手の想像力を刺激します。
- ネックの横移動を増やす: 一つのポジションで弾き切るのではなく、大きくネックを移動しながら弾くことで、視覚的にも「バンドの主役」であることをアピールします。
🎤 実体験:Entiqueのライブで掴んだ「手応え」
以前の私は、ソロになると必死で指を動かしていましたが、どこか音が細く感じていました。ある日、ルート音を鳴らしっぱなしにする「ダブルストップ」を多用したソロに変えてみたんです。すると、ベースとの絡みが一気に良くなり、観客からも「音が太くなった」と絶賛されました。テクニックよりも「構成」が、3ピースのソロを救うのだと学びました。

まとめ
3ピースのギターボーカル。それは、ギターと歌という二つの刃を持ちながら、最小限の仲間と共に荒野を突き進むような、最高にエキサイティングな役割です。
今回の記事を振り返ります。
- 隙間の活用: 全てを鳴らすのではなく、「抜く」ことでアンサンブルを際立たせる。
- ベースとの共鳴: 二人で一つの大きな楽器を作るような、周波数の棲み分け。
- ソロの構成力: 単音に逃げず、リズムとコード感をキープしながらメロディを奏でる。
- フロントマンの覚悟: 自分が止まれば音が止まる。その責任感をエネルギーに変える。
サークル時代の「守られた環境」では得られなかった、この剥き出しの音楽体験。Entiqueでの3年間は、私をギタリストとしても、一人の人間としても大きく成長させてくれました。
もしあなたが今、「3人だと音が寂しい」と悩んでいるなら、それはチャンスです。その隙間に何を詰め込むか、あるいは何を削ぎ落とすか。それを考えるプロセスこそが、あなたのバンドだけの「オリジナルな音」を生み出す種になります。
次の練習で、いつも弾いているコードの指を一本離して「開放弦」を混ぜてみてください。あるいは、1曲まるごと「ベースと全く同じフレーズを弾くパート」を作ってみてください。3人だからこそできる「音の実験」が、あなたのバンドを唯一無二の存在に変えてくれるはずです。
新しい週、3ピースならではの「濃密なアンサンブル」を追求して、最高の1週間をスタートさせましょう!


